スポットから継続へ:AI 時代の顧客理解
20 世紀初頭の米国では、自動車は作れば売れました。しかし、1914 年頃になると状況は変化します。ある人は「良いと思うものを作っても売れない」と言い、「消費者が求めているものを売らなければならない」と主張しました。勘に頼ったマーケティングが一般的だった当時からすると、新しい考え方でした。
そう主張したのは、史上初のマーケットリサーチャーと呼ばれる、チャールズ・パーリンです。
1914 年、ペンシルベニア州で各種雑誌を出版していた、カーティス出版社はパーリンに自動車業界の市場調査を依頼します。雑誌の広告出稿者が、広告枠の効果を知りたがったのです。雑誌の広告枠を販売する施策として、雑誌の読者や産業に関する調査を実施しました。パーリンは自動車のディーラー、メーカー、購入者を数ヶ月にわたりインタビューを繰り返したのち、5 冊の調査レポートを報告します。
パーリンの時代と比べると現在は様々なツールがあります。しかし、本質的なワークフローは変わりません。1914 年と比べ変化が速いため、より難しいと言えるかもしれません。数週間かけて調査を実施し、結果を PDF レポートにまとめ、やがて他の多くの資料とともに忘れ去られてしまいます。
Probyをはじめとする AI リサーチプラットフォームは、インサイトのあり方を根本的に変えます。より頻繁な深掘り調査が可能になったことで、静的なレポートではなく「生きた顧客モデル」を構築することができます。インサイトは PDF は資料のなかに死蔵されるのではなく、日々の意思決定や業務に反映されていきます。
AI 時代の顧客理解の本質は、ChatGPT から平均的な回答を得ることではありません。また、単に時間短縮できたり、新しいダッシュボードを追加することでもありません。AI 時代の顧客理解のインフラは、市場に合わせて呼吸し、更新され続ける顧客モデルなのです。
地図と領土
地図は、現実の領土を簡略化したものです。原寸大の地図があっても、あまりに巨大で役に立たないでしょう。市場調査もまた、顧客を理解するための地図です。しかし、全ての地図が同じではありません。
アンケート
インサイトを取得する方法のひとつは、アンケート(定量調査)です。アンケートは国勢調査を行うために古来より用いられてきた手法です。20 世紀以降、大量生産が一般化しマス・マーケティングが求められるようになると、産業界でも活用されるようになりました。
アンケートは、多くの人から回答を集めることができます。また、全員に対して同じ質問をするため、分類や比較が容易であることも特徴です。一方、アンケートで得られる回答は浅くなりがちで、事業判断に直接結びつかないことが多いです。国勢調査のようにマクロで捉えることには役立ちますが、個々の実態を具体的に把握することは困難です。
アンケートでは領土の大まかな形状を捉えた地図を作成できるものの、各地域の特徴を正確に捉えることはできません。

インタビュー
もうひとつの方法は、インタビュー(定性調査)です。現代でインタビューが利用されたのは社会学や人類学の分野がきっかけでした。アンケートのような固定された質問形式では、人の体験やストーリーを十分に理解できないことから行われるようになりました。
インタビューでは、アンケートよりも深いインサイトを得ることができます。一方、適切に行うためには専門的なスキルが必要であるほか、頻繁に実施するにはコストが負担になります。また、従来のインタビューは回答の整理や分類に手間がかかり、それぞれの回答内容を横断的に分析することも困難です。
インタビューは、領土の一部をピンポイントで指定し精緻な地図を作成できるものの、多角的に把握することはできない場合があります。

AI インタビュー
20 世紀以降、コンピューターはデータの計測や処理を高速化してきました。あらゆるデータを整理しデータベースのスキーマに合わせて管理することで、作成したり、取り出せるようになりました。
しかし、コンピューターは構造を固定したデータの処理は得意でも、非構造化データの処理は苦手でした。商品の SKU 管理はできても、会話の内容を理解したり、表情を読み取ったりすることは不得意だったのです。従って、インサイトの分野でもこれまでの進歩は定量調査に限られていました。顧客の行動(What)を追うことはできても、その背後にある理由(Why)を探る定性調査は、依然として人手に頼らざるを得ませんでした。
結果的に、「深さ」と「広さ」はトレードオフの関係にあったのです。
生成 AI の登場により、前提は大きく変わりました。言語、画像、動画などの非構造化データを処理する能力が飛躍的に向上しました。定性的なニュアンスを損なわずに大規模なインタビュー調査や分析が可能になったほか、調査の設計から分析までにかかる時間は数日ないし数時間まで短縮されました。
例えば、Probyでは AI エージェントが深掘りインタビューを自動化することで、インタビューの深さとアンケートの広さを両立しています。回答結果からインサイトを抽出、テーマ分類を速やかに行い、レポーティングされます。
地図の喩えをもう一度、使いましょう。
従来の顧客理解は、紙の地図です。結果を印字した時点で地図の内容が固定されます。翌日に道路が封鎖されても、新しい店ができても、紙の地図は更新されません。古い測量データを頼りに、変化の激しい市場を歩かねばなりません。
対して、AI 時代の顧客理解はデジタルの地図です。Google マップのように自由に拡大・縮小することができ、市場の変化、競合の動き、ブランチ認知、トレンド等を更新し続けます。

長期的には、インサイトを AI で取得できることを最大の変化は調査スピードではなく、継続的に更新される顧客モデルの構築にあります。深さとスケールを両立することで、顧客を多角的に捉えたモデルは組織内の各チームにインサイトを届け、顧客視点を提供します。
まとめ
パーリンが初めて市場調査を行った 1914 年から 100 年以上経過しました。その間、調査の手法は洗練されましたが、基本的なワークフローは変わっていません。数週間から数ヶ月かけて調査を実施し、結果をレポートにまとめ、意思決定に活用する。従来の調査はスポット的に行われてきました。
一方、AI 時代のインサイトは継続的なものです。深さとスケールを両立した AI インタビューを活用した多角的な顧客モデルが、あらゆるチームの意思決定を支えます。AI を活用したマーケティングの最大の変化はスピードではなく、意思決定のプロセスそのものと言えるでしょう。